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世界牡蠣研究家
山本紀久雄

タイの牡蠣養殖は アンダマン海とタイランド湾のいくつかの海域で行われていて、最も盛んなのは下図の矢印で示したスラート・ターニーとチョンブリー地区である。



2013年11月、9時にホテルを出発し、バンコクから南東方向へ高速をチョンブリーの手前約5㎞の牡蠣養殖地であるアンシラに向かった。今日は土曜日なので空いている。いつもは渋滞がひどい。アンシラに入ると「海洋科学研究所The Institute of Marine Science Thailand」の看板が目に入った。早速入ってみる。

入館料は120バーツ(1バーツ=3.62円)なので434円。なお、入館券には「Bangsaen  Institute of Marine Science  Burapha University」とある。看板と違う名前だが、この研究所の成り立ちを調べてみて分かった。この海洋科学研究所は、元々ブラパ大学動物学博物館と旧シーナカリンウィロート大学バンセンキャンパスの海洋水族館であったが、1980年に新しい施設を建設しようと、日本政府に共同プロジェクトを提案し230百万バーツ(約8300万円)を受けて建てられたのである。

海洋科学研究所の主な施設は、
1. 海洋科学研究ユニットとして①海洋環境、②海洋生物多様性、③マリン養殖、④海洋バイオテクノロジーの研究。
2. アカデミックサービス。
3. 管理部門
の三つに分かれている。

1の海洋科学研究ユニットは、海洋科学のすべての分野の研究を遂行するために、独自の研究室を持ち、他の機関や地域社会と標本・水質分析等を提供し、論文研究及び特別テーマ研究を実施する大学院生や学部学生を支援する業務である。 2のアカデミックサービスは、海洋水族館と海洋科学博物館を運営している。海洋水族館では、毎日8.30から17.00まで開館し、子どもたちや地域のための学習センター業務と研究者に実際の生態情報を提供する。 海洋科学博物館は、海洋生物の標本を展示している。プランクトンなどの微小なものからジンベイザメなどの大きなものまである。 また、海洋天然資源の乱獲に対する意識付けの展示もし、海洋天然資源と環境、ワークショップやセミナーに役立つよう機能している。

(海洋科学研究所)

(海洋水族館)

なかなか充実した研究所であり、子どもたちが水族館で楽しんでいるのを見て、日本の援助も役立っていると感じた。

次にアンシラの海に向かったが、その途中の道路上で牡蠣を売っている一人の男性がいる。早速、いろいろ聞いてみる。聞いた内容に入る前に、アンシラについて説明したい。アンシラは花崗岩の製品でよく知られている。 漁師は魚を捕るだけでなく、花崗岩から乳鉢と乳棒を作る。乳鉢は固体を粉砕または混和するために使用するすり鉢で、乳棒と共に使用されるが、タイの家庭では今でも広く使われていて、その生産地としてアンシラが有名で、加えて、工芸品や土産品としてライオン・ゾウ・馬など置物も一緒につくられ、海岸道路わきの土産店にたくさん並んでいる。さて、牡蠣売りの男性。露店販売台には山盛りにおかれた牡蠣、これには養殖時に使った紐・ロープがついたままである。養殖は4月から翌年3月まで、つまり、一年間沖合の養殖海域でしているといいながら、向こうだと指さす。指さした方向に海から黒い棒林の一画が見える。


海底に棒を立て、そこに長さ4mの紐・ロープで牡蠣をつるす方式、簡易垂下式養殖法で、養殖海域はずっと同じ場所だという。海の深さはいろいろで、台風は来るがそれほど強くないので、移動させる手間は必要なしという。養殖海域は国に権利料を払い借りている。同業者は大勢いると言いながら、牡蠣剥き始めて、剥いた牡蠣を水が入ったポーチに入れるが、その水は黒く汚れている。とても日本人には食べられない状態だ。牡蠣の形は大小不定形様々だが、むき身にするので形は問題なしという。中国・台湾のむき身牡蠣販売と同じである。

この仕事は親から引き継いで12年目で、牡蠣とともに野菜も売っている。この野菜は別の業者から買うのだと話しているところに、野菜売りのオートバイ女性が来た。犬と子供を連れている。牡蠣は野菜(グラティン)と揚げタマネギ、生ニンニク、唐辛子、ライムをかけてタレにつけて食べるのだと言いつつ、野菜売りの女性が牡蠣剥きをして見せてくれる。バンコクから運転してくれたドライバーが、100バーツと50バーツのビニール袋入りの牡蠣を買った。買うと氷を入れて渡す。

(グラティン)

(牡蠣剥きの実演)

道路露店牡蠣売りと話していると、そろそろ昼食の時間なったので、少し走って、海に張り出した桟橋に向かう。
桟橋の両側には魚類を売る店が多く並び、その一画がシーフードレストランになっている。

その中の一軒、海に面した広いテラス方式の店。ここでオースワン、上の写真の真ん中の皿だがタイ風牡蠣と卵の鉄板焼きを食べる。タイの中華系海鮮レストランでおなじみのメニュー。小粒の牡蠣ともやし、卵を炒めてでんぷん(片栗粉やタピオカ粉)を絡めたもの。日本の食べ物で例えるともんじゃ焼きが近い。オースワンについてきたもやしは、しゃきしゃき感を保ちながらも火はちゃんと通してある。牡蠣、でんぷん、卵のとろとろ感にもやしの歯ごたえがさっぱりと小気味よく、日本人は好まれる味で、そのままかチリソースを付けて食べる。思いがけなく美味く満足した。

タイの牡蠣養殖については、東邦大学理学部の大越健嗣教授が「タイのカキ養殖の現状と今後の展望」論文を発表されているので、それを以下紹介したい。「タイ湾を囲む地域を中心に年間2万トン以上の生産がある。生産される種は主にCrassostrea belcheri、Crassostrea iredalei、Saccostrea cucullata、Saccostrea forskaliの4種とされており、マレー半島沿岸南部のSuratthaniではC. belcheriが、バンコクに近いタイ湾奥部のChonburiではSaccostrea属とC. iredaleiが主に生産されている。

このように養殖対象種が4種以上もあり、しかも同一海域で属の異なる複数種が生産されているのは非常に珍しい。中国、韓国そしてタイにおける養殖ガキの生産動向は、今後のわが国のカキ養殖にさまざまな影響を及ぼすことが考えられる。しかし、それに関する情報は乏しいのが現状である。そこで、2003年3月にタイ湾奥部最大のカキ養殖地であるChonburiにおいて、カキの生産方式について現地調査を行った。

Chonburiはバンコクから南東に約100kmのタイ湾に面した町である。遠浅の海岸を利用してカキやミドリイガイの養殖が行われている。カキ養殖は海に竹の支柱をたてて棚をつくり、そこにカキをつけたロープを吊るすという簡易垂下式で行われていた。この時見た種苗(種ガキ)はChonburiからさらに100kmほど南下したRayongで採苗したものであるという。採苗にはセメントを小さく固めたものを細いロープに数㎝間隔で貼り付けたものを用いていた。このセメントの表面に固着した種ガキを本垂下して生産するが、本垂下後1年以内に収穫するという説明であった。1つのセメントには多くとも数個体のカキしかついていないものが多かった。

しかし、収穫時期の垂下連には1つの塊に10個体以上のカキがついているものが比較的多く見られた。また、固着したカキの右殻の上にひとまわり小さな個体が固着し、その上にさらに小さな個体がついているという場合もあり、加入が長期間にわたっていることが推定されるとともに、本垂下後も新たな個体の固着が起こり、それらの一部も収穫の対象になっているものと思われる。このようなことは年1回夏に発生する温帯域のカキではほとんど起こりえない現象である。

また、これらのカキは1種なのかそれとも複数種が混じっているのかという疑問が起きる。固着直後の種ガキは形態から種を判別することが困難で、ある程度成長しないと上記4種の区別がつかない。そのため、これまではどの種の種ガキをとって養殖しているのか、また、養殖途中で新たにどの種が固着してきたのか、そして、1つの原盤についているカキは何種で何個体になったのかということは収穫時にならないとはっきりわからないということになっていた。

マガキ等の養殖ではホタテガイの貝殻の原盤に固着した種ガキが本垂下開始時に100個以上あっても収穫時には1/10以下になることも珍しくない。つまり、収穫時まで死亡や脱落により個体数はどんどん減少する。しかし、タイの場合は短期間の本垂下期間中にも加入が起こり、しかも成長が速いことから、それらの一部も収穫対象になってくるということが起こりうる。収穫されたカキはSaccostrea属とCrassostreaのカキが同じ原盤に固着している場合がしばしばあり、それらがむき身にされて道端の露店などで販売されている」

このように大越教授が見事に整理してくれているが、もう少し補足事項をお伺いしようと大越教授に連絡してお話を聞いてみたところ、これ以上はタイの専門家に聞く方がよろしいということで、論文の中で紹介されているカセサート大学のUthairat NA-Nakhom教授に連絡したところ、ラジャマンガラ工科大学のDr. Suwat Tanyarosを紹介受けた。そこでTanyaros氏に連絡したところ、専門的な論文を7つも送っていただいたが、これは専門学術的であるので、ここでは紹介しないことにしたい。

なお、Crassostrea belcheri牡蠣はインド洋で主に生息する種であり、タイでは天然シードを用いているとのこと。

次に、タイでは牡蠣の食べ方はどのようなものが主流なのかをタニヤロスTanyaros氏にお聞きすると、何と「生で食べる人も結構いますよ」という回答である。

これに驚く。というのもアンシラの道端露店で牡蠣剥きし販売していた男性がむき身牡蠣をポーチに入れ保管していたが、その水は黒く汚れているのを見て、とても生で食べるには適さないと思っていたからである。

したがって、シーフードレストランでもオースワンなど調理して食べるものと思い込んでいたのである。しかし、タニヤロス氏は「生で食べる人も結構いますよ」という。タイの学者が言うのであるから事実なのだろう。

そこで、改めて、タイで牡蠣を食べた経験のある何人かに尋ねてみると、生で食べる人も結構いることが分かった。

では、その生をどのようにして食べるのか。

タイで生牡蠣をオーダーすると、以下のものがついてくる。

  • 1.ライム
  • 2.生ニンニク
  • 3.唐辛子
  • 4.揚げタマネギ
  • 5.グラティン(毒消し草)
  • 6.タレ

ここでのポイントは5.グラティン(毒消し草)であって、これを食べると当たらないという。因みに、グラティンはカルシウム、カリウム、高タンパク、ミネラル類も豊富に含まれ、生活習慣病などの予防に効果的で、特に高血圧予防、体内酵素を活発に、免疫力強化、精神安定作用、健康維持、骨格形成などの効用があるらしい。万能野菜かと思うほどだ。

この6種類をどういうステップで食べるのか。

  • 1. まず、生牡蠣をスプーンにとる
  • 2. それにライムをかける
  • 3. 生ニンニクと唐辛子をかける
  • 4. 揚げタマネギをのせる
  • 5. タレをかける
  • 6. 生牡蠣をツルッと食べる
  • 7. 最後にグラティンを必ず食べる

アンシラの道端露店牡蠣売り実態、あの黒く汚れた水でむき身牡蠣を洗っているのを見ている当方としては、ちょっと生牡蠣を食べる気がしないが、実際に食べた人の感想は「いやー、これがマジでうまいんですよ。病み付きになりますよ。軽く5個くらいはいけるし、10個は食べても平気なんじゃないかと思います」と言う。
ということで、生で食べる人も結構いると思った次第。 

これでタイの牡蠣事情を終わりたい。