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世界牡蠣研究家
山本紀久雄

1. デンマークという国

デンマークは「豊かで」「もっとも住みやすく」「幸せな」国であるといわれている。
実際にはどうなのか。それを確認したくコペンハーゲンと、コペンハーゲンが位置するシェラン島から列車で四時間ほどのユラン島・ストルーアという町へ、そこからフェリーで渡ったヴェヌー島で体験した牡蠣事情を二回に分けてお伝えしたい。

まずはデンマーク全体の概要を把握したい。

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① 面積は約4.3万平方キロメートル(九州とほぼ同じ・除フェロー諸島及びグリーンランド)
② 人口は約560万人(2013年デンマーク統計局)
③ 首都はコペンハーゲン(人口は約70万人、首都圏の人口は約120万人)(2012年末)
④ 言語はデンマーク語
⑤ 宗教は福音ルーテル派(国教)

このデンマーク、今でこそ世界有数の豊かな国家となったが、これは一朝一夕でできたわけではない。19世紀初頭のデンマークは、経済的に破綻し、領土も喪失して、実際に「貧しく、小さな国」であった。
そこからデンマークの人々は立ち上がり、土地改良ほか、さまざまな改革と努力によって、今日の恵まれた国を築き上げてきたのである。
現在のデンマークは、米コロンビア大学地球研究所が調査し発表した世界各国「幸せな国」ランキングでトップを占めている(2013年9月)。(CNN)
上位10カ国は以下の通り。

  • 1.デンマーク
  • 2.ノルウェー
  • 3.スイス
  • 4.オランダ
  • 5.スウェーデン
  • 6.カナダ
  • 7.フィンランド
  • 8.オーストリア
  • 9.アイスランド
  • 10.オーストラリア

この他の主要国では、米国17位、英国22位、ドイツ26位、日本43位。
幸福度が最も低い5カ国はルワンダ、ブルンジ、中央アフリカ、ベナン、トーゴと、アフリカのサハラ砂漠以南に集中している。

デンマークの政権は、2011年9月の総選挙によって、10年に亘り政権を担当してきた自由党及び保守党による右派連立政権が敗北し、社会民主党を中心とする左派が勝利を収め、トーニング=シュミット社会民主党党首を首班(デンマーク初の女性首相)とする中道左派三党連立内閣が発足している。通訳女性に聞くと、この政権は、移民には厳しく、自分の夫はデンマーク人だが、手続きが大変だったという。ただし、政権交代のたびに移民制度の内容が変わるので、今後のことは不明だが、今はEU以外の国からの移民は特に難しい。消費税は25%。同性婚は昨年認められた。有名な文学者はアンデルセン、哲学者はキルケゴール、スポーツでは自転車競技、ヨット、カヌー、ハンドボールが強いという。

コペンハーゲン
さて、コペンハーゲンには、ベルギーのブリュッセル空港からSASスカンジナビア航空で入ったのが2013年5月18日(土)。ブリュッセルでは雨が降り、寒くて震えたので、ここより緯度が高いコペンハーゲンだから、もっと寒いだろうと予測し国際空港のカストロップ空港に着き、窓から外を見ると日光が燦々として26度もあるという。 ホテルでコペンハーゲンの地図をもらい、早速、街中を歩いてみた。日差しが熱い。ホテルで聞くと、今日は特別だといい、明日は雨だよとつけ加える。 

コペンハーゲンには1990年であるから、今から23年前に来ていて、当時の思い出を辿って、市庁舎の前に立つと何か騒々しくなっているような感じがする。この市庁舎は1905年に完成した6代目にあたるもので、中世デンマーク様式と北イタリアのルネッサンス様式を取り入れた堂々たるたたずまいの建物。コペンハーゲンで最も高い105.6mの塔をもっており、コペンハーゲン市街を見渡すことのできる絶景スポットしても知られている。
だが、この街を一日半、歩いてみて、感じたのは「やはり変わっていない」ということ。最初に騒々しいと感じた理由は分かった。市庁舎前の広場がイベントを開催するらしく、多くの関係者が慌ただしく動いており、そのための資材がおかれていたことから、そのように感じたのである。

23年前、この街は、歩いて観光するにちょうどよい大きさだと思ったが、今回も同じ感覚を持つ。パリやニューヨークを歩いて動き回るのは厳しい。地下鉄やタクシーを使うことになるが、コペンハーゲンは地図を見ながらブラブラ歩くには絶好の街だと思う。コペンハーゲンの人口は52万人。名前はデンマーク語の"Kjøbmandehavn"(商人たちの港)に由来し、 日本語では「コペンハーゲン」というが、これはドイツ語名をカタカナ表記したものであり、デンマーク語では「ケブンハウン」に近い。

コペンハーゲンには、城、公共建物、美術館など歴史的な建造物がたくさんあるし、市役所前広場からストロイエ通り、この通りは市庁舎前広場とコンゲンス・ニュートーゥ広場を結ぶ通りであるが、フレデリクスバーウギャーゼ、ニューギャーゼ、ヴィメルスカフテ、エスターギャーゼの4つの通りで構成されている。ストロイエとはデンマーク語で歩くこと。市民や観光客の目を楽しませてくれるこの通りは、その名にふさわしい歩行者天国。道の両側にはさまざまなショップやレストラン、カフェが並び、路地裏には、中世の香り漂う重厚な教会や色鮮やかな家屋が並んでおり、そぞろ歩きが楽しい。

通りの中ほどにギネス・ワールド・オブ・レコーズ博物館 がある。入口に世界一の背高のっぽの人の像が目印だからすぐわかる。中に入らなかったが、ギネスブックに載っているさまざまな記録がひとめでわかる博物館である。ストロイエ通りの終点はコンゲンス・ニュートーゥで、ここに入ると自然にニューハンに足が向く。ここはいつも大勢の男女が屯っていて、天気の良い日は足元にビール瓶を置いて会話に興じている。その傍らを、そのビール瓶目当ての男女が袋を持って歩いている。結構の人数が徘徊していて、気をつけないとまだ飲み残しがあるビール瓶が浚われる恐れがある。空きビール瓶を売ってお金に替える仕事であるが、何となく侘しく見え、これだけはコペンハーゲンの街並みのよさを傷つけていると感じる。

次の日の日曜日は朝から雨。昨日より12度低い14度。コートがいる。その雨の中、ホテルから歩いて地下鉄駅へ。乗車券はセブンイレブンで買う。一人24デンマーク・クローネDkk、1 Dkk =18円換算で1430円。結構高い。人魚姫の像の駅、エスターボートにすぐに着く。駅から歩いて20分くらいかと、地図を広げていると親切にデンマーク人が教えてくれる。言われたように歩いて行き、公園内の道になったあたりから人が徐々に多くなっていき、その人々の回りをマラソンランナーが走っていく。今日はコペンハーゲンマラソンの日なのだ。モロッコの選手が2時間17分台で優勝したらしいが、一日中街中はマラソンで大賑わいであった。

D_1_2.pngさて、期待の人魚姫は公園を過ぎて、少し下る坂道の突端埠頭近くの岩の上に楚々として腰かけている。今までに何回も首が切断されたりする事件が話題なっているが、「世界三大がっかり」と言われながらも、コペンハーゲンの人気観光スポットである。この人魚姫、足の先だけが魚らしくなっているだけで、ほとんど裸婦像と言ってもよいだろう。象をつくる際のモデルの足があまりにも綺麗だったので、作者が足をつくりたくなったのだというエピソードがうなずける。

人魚姫の撮影は結構難しい。理由の一つは、あまりにも観光客が多いことで、自分と人魚姫だけの写真を撮るには、タイミングが必要である。人がカメラを構えていても、お構いなしに人魚姫の前に立ってしまう男女もいるし、特に激しいのは団体客である。バスで来て、時間が限られるためか、一斉にやってきて、争うように撮影しまくるので、その間は茫然と見ているだけ。

もうひとつの理由は、後ろは海、手前は岩場で足元が悪いうえに狭いので、うっかりすると足を踏み外す危険性もあるからだ。

ここで怪我すると厄介だ。救急車を呼ぶにも、コペンハーゲンでの手続きが分からないだろうから、とにかく、人魚姫では慎重な行動が望ましい。ここで日本人女性一人旅に出会って、シヤッターを押してくれといわれた。ヨーロッパを歩いていると、時折、このような若き女性の一人旅に会うことがある。現在の境遇に飽き足らず、人生の転機を求めて結構長期の旅をしている女性が多い。場所を変えればある意味で転機になるだろうと思っているらしいが、結局、日本が一番住みやすいと気づき、戻っていく例が多いと思う。

ここでロンドンのライフスタイル誌「モノクル」が毎年、世界の都市のどこがもっとも暮らししやすいかをランキングしているのでみてみよう。


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一位はやはりコペンハーゲンだ。編集長のタイラー・ブリュレが選定基準を次のように語る。「『本当に良い街』とは、一日の間にできる限り多くのことを気持ちよく体験させてくれる街のことだと、私は考えています。朝、子どもを学校に送り届け、買い物をし、仕事に出かける。そうしたことをスムーズにストレスなくできる街です」これに異論はないが、筆者はもう一つ加えたい。それは食である。素晴らしいレストランがあることが「よい街」の重要要件であると思う。

その素晴らしいレストランがコペンハーゲンに存在している。それがクリスチャンハウン地区の「ノーマnoma」レストランである。途中マラソンのため渋滞で、世界中で都市マラソンの人気が高いと再認識しつつようやく「ノーマ」店の前にたどり着いたそこは、予想通り静かな寂れた海岸倉庫街にあった。ここが、ここが世界でもっとも予約が取れないレストランといわれているところだ。

だが、今年の4月29日にロンドンで発表された「サンペレグリノ世界のベストレストラン50」、これは料理人や評論家ら900人の投票で選ぶものであるが、2013年はスペイン・カタルーニャのミシュラン3つ星「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」が、3年連続で首位だった「ノーマ」を抑えて世界最高の栄冠を獲得したが、「ノーマ」の価値は下がっていない。

D_1_5.pngnomaとはnordic(北欧)と、食材を意味するmadを組み合わせているように、北欧の食材をテーマにしており、地元出身のシェフ、レネ・レゼッピは、まだ36歳という若さ。予約が取れないのであるから、店に入れない、したがって、折角コペンハーゲンに行っても「ノーマ」を語れない。そこでデンマーク大使であった岡田眞樹氏の体験内容で補いたい。(魅惑のデンマーク 新評論)

「これまでに行ったレストランのなかでダントツに素晴らしかった店がここ。周りは察風景なところだ。夜のメニューは7皿のコース料理が標準だが、昼はその中から魚と肉とデザートの3品が選択できる。2品だと220クローナ、3品だと290クローナとちょっと高めだがワインをグラス程度にしておけば3品注文しても400クローナ(約一万円)ぐらいでどうにかなる。座った途端に出てきた奇怪な料理に、まず驚かされた。ウェイターに聞いてみると、手前のものは干したタラの皮、右は揚げ物だが、飴色っぽい何かの魚を干したものでピリッと辛いスパイスがまぶしてある。ポテトチップ以外はすべて海産物、それも店の売り言葉のように『北欧の産品だ』と言う。この揚げ物、結構こくがあっておいしい。

次に出てきたのは、コース料理には含まれてはいない付き出し。これがまた奇妙というか、食べたことのないものだった。ライ麦パンと真ん中がクリーミーなチーズ、そしてライ麦の粉でつくった『スノー』だ。これが単なる粉ではなく、それこそサラサラした新鮮な雪を食べるような感触で、口の中でさくっと崩れて融ける感じともに冷たさがあった。クリーミーなチーズと一緒に食べると、口の中で融ける味わいは絶妙であった。

さて、ここからがようやくコースメニューとなる。・・・以下省略・・・『美味しい、美味しい』の連続で料理レポートとしては芸がないが、デンマークでこれまで食べた食事のなかではダントツに美味しかった。あくまでも軽く、淡泊で繊細なところに強い自己主張があり、日本人好み味と言える。店は『ノルディック・グルメ料理』を目指しているそうだが、その結果は、伝統的なデンマーク料理とは似ても似つかないものとなっている。何かの料理に似ているというよりは、まったく新しい方向を進んでいると思えるような品々であった」この岡田大使の記述を読んで感じるのは、レネ・レゼッピが目指しているのは「美食」というよりは、もっとほかの方向を目指しているように思う。
単純な「美味しい」を超えて、哲学的要素を含んだ最先端の料理を作り上げようとしているのだと判断したほうがよいと思う。

「サンペレグリノ世界のベストレストラン50」で日本勢は、東京南青山のフランス料理店「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」が12位、東京・六本木の「日本料理龍吟」が20位に選出された。いずれも去年の順位より10位以上上昇するなど、躍進しているが、「ノーマ」とはどのように異なるのか、それを試してみたい気持ちでいっぱいだ。