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蒸し牡蠣登場

 この夏休みは播磨灘の海辺で過ごしました。
播磨灘とは瀬戸内海東部地区の海域をいい、兵庫県南西部(旧播磨国)の南側に位置し、東は淡路島、西は小豆島、南は四国で区切られ、西北部に家島諸島があり、東西約50km、南北70km、水深は40m前後、播磨五川と称される加古川、市川、夢前川、揖保川、千草川が流れ込んでいる海域です。

 播磨灘に面する陸地、神戸地区から姫路地区にわたっては、段丘地形の台地となっています。段丘とは階段状の地形をいいますが、たつの市御津町の室津海岸からつづく相生湾、坂越湾はこの段丘地形と異なり、美しい沈降海岸となっています。
大地がここ100万年の間に、少なくとも100mは沈んだことから、海水の流れがゆるやかな入り海となっているのです。

実は、この海域条件が牡蠣養殖に最適なのです。

 夏休みを過ごした播磨灘の海辺での昼食は、道の駅や漁協が経営する市場内で食べました。まず、相生市の道の駅・白龍(ペーロン)城に入ってみると、入口すぐに牡蠣味噌ラーメンと大書してあります。いかにもうまそうな写真に惹かれ、真夏の暑さを省みず注文しました。さて、出てきた牡蠣味噌ラーメン、麺はいまひとつでしたが、身太りの牡蠣をかみしめると深い味わいが舌に残り、美味い。さすがに相生は牡蠣に力を入れているなぁと感じます。

 次の日は、陽射しが強い中、坂越漁協経営の海の駅・しおさい市場内の食堂に向かいました。この浜で、夏に牡蠣があるかどうか。多分、夏だから当然メニューにないだろうと思いつつ、ウェイトレスに聞くと、何と生牡蠣があるという。驚き、メニューを見ると次のように書いてありました。「地元坂越のかき業者が数年前より取り組み、苦難の数々を乗り越え、ようやく成功しました。低温海域にて一粒一粒丁寧に育てられた逸品は『生かき』で召し上がって頂くことが最高の至福です。加熱しても身が縮まらず、旨みが増します」とあり、ネーミングは「なつみ」とある。

 生牡蠣を食べるときは白ワインと決めています。だが、今日は車の運転があるのでワインは飲めないので、蒸し牡蠣を注文しました。このネーミングも「なつみがき」です。
少し待ってテーブルに出てきた蒸し牡蠣、レモンが添えられていますが、レモンなしで食べてみました。確かに身は縮んでいなく、味わい深い感がします。宣伝にウソはないと思い、坂越でも牡蠣に力を入れているなぁと思いつつ、だが一個450円は高いと思いました。

 東京に戻って、近くの大手スーパーの魚介類売り場に行ってみますと、ホタテ貝の蒸したものと並んで蒸し牡蠣もありました。早速買って食べましたが、容器に「そのままお召し上がれます。カキフライ、ムニエル、シチューなどでもどうぞ!」と書いてあります。

 蒸し牡蠣の製造方法、この容器に記載された製造企業に聞いてみました。「むき身牡蠣を洗浄し、100度のスチームで加熱し、冷却させ冷蔵し、その後に急速冷凍したものをサイズ選別・計量・包装します」

蒸す場合と加熱でつくった牡蠣の違いについては、
「蒸気をカキにあてますと、水分がカキの周りに膜を作るので、美味しさがカキに残ります。セイロで蒸す感じです。高温でカキを加熱すると、カキの水分がしみ出す場合があり、旨味が逃げやすい。この点が大きく違うところです」と。
なるほど、そうすると高温スチームでノロウィルスは死滅しているのですねには「そうです。ですから安全です」との回答でした。

これはなかなかよいと思い、夏食卓の定番冷麦に蒸し牡蠣を使ってみました。
麺の茹で上がる寸前に牡蠣を入れ、すぐに取り出し、冷麦の上に海苔や青物と一緒に載せました。勿論、味は抜群でした。

 蒸した牡蠣には、まだ馴染みのない方が多いと思います。
旬の成熟した牡蠣を、美味しく食卓への思いを感じられる扱いやすい食材なので、またお料理レパートリーが出来そうで、これから人気アイテムになりそうな予感がします。

本物同士

 ワインといえばフランス製、これが世界の常識であったのが崩れつつある。ちょっとこの崩れつつある常識の歴史をたどってみたい。

 始まりは田崎真也だろう。1998年、世界最優秀ソムリエという経歴をもって「フレンチ・パラドックス」というキーワードを広めた。これは「フランス人が動物性脂肪を世界一摂取しているのに、動脈硬化による死亡率が非常に低いという統計的事実」から、ワインは体によい、と主張したのである。

 結果はワインの消費が爆発的に増えたが、このブームがあっても国産ワインは肩身の狭い思いをしてきた。日本産ワインは年間消費量の四分の一しか占めていなかった。
理由は明確だ。日本のワイン製造方法に問題があったのである。日本産ワインという表示を受けるには、国産ブドウ搾汁が5%以上ブレンドされていればOKで、結果として、輸入ブドウ搾汁やバルクワイン(ブレンド用の輸入ワイン)が大量に使用されていた。これでは本場物ワインにかなうはずがない。

 この実態に憂えた、山梨県のワイン醸造業者約30社が協力し合って、100%国産ブドウのみを使用したワインを国産ワインとする「原産地呼称ワイン認証条例」の制定にこぎつけた結果、ここ10年、日本産ワインの品質は劇的に向上し、ついには欧州への輸出が承認されたのである。それまではワインと認定されていなかったのである。つまり、日本人はワインではないものを、ワインと言われ飲んでいたということになる。

 輸出された代表が甲州ワインShizen(自然)である。いろいろな背景から甲州名は使用できずShizenとなったのは残念だが、ワイン本場のフランスへ甲州ワインが輸出され、評判は上々とのこと。

 そこで、早速、京都産岩牡蠣とのマッチングを味わってみた。京都・天の橋立海域で、漁師さんが海深く潜って、手づかみ採りする新鮮で重厚な味わいの岩牡蠣、さて、甲州ワインと合うだろうか。

 冷蔵庫でしっかり冷やした甲州白ワイン、一口、ワイングラスから口に含み、その上に京都産・生の岩牡蠣をあわせ、かみしめる。ウーン、うまい、充実感が広がっていく。確かに牡蠣には白ワインだ、と再確認できる。

 本物の京都産・岩牡蠣には、本物の国産100%ブドウのワインが合うのだ。本物同士の出会いは楽しい。