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新種のマガキを求めて  フィリピンのカキ養殖の現況・・・そのⅣ


4.1 フィリピンのカキ養殖の将来展望について

 フィリピンでは古くから散布法といった原始的養殖法はおこなわれていたが、近代的牡蠣養殖は1921年にネグロス島のネグロス・オクシデンタリス州ハイニガラン(Hinigaran)で現地に生息しているマガキ属アイアデールガキ(Crassostrea iredalei)の稚貝を採集し開始されたことが判明している。その後、カキ養殖は国内の各地に拡大し、1988年当時には、17州に1500-5000平方メートルの規模を持った約1300の養殖場があり、総面積は5キロ平方メートルに達していたという記録が残されています(Oyster,Commoditities Series,№.64,TLRC,1988)。

主な養殖地は、図26に示されるように、ルソン島のルソン北部カガヤン地方バグエイ(Buguey, Cagayan)、ルソン島西北部のパンガシナン州リンガウエイ湾(Lingayen Gulf) とその北方Ilocos Sur Ilocos Norteの海岸、マニラ湾周辺(Mariveles, Tarnate, Bacoor,  Cavite)、パタンガス湾(Batangas Bay), タバヤス湾(Tabayas Bay), ルソン島南部ソルソゴン湾(Sorsogon Bay); サマール島西部カトバラロガン(Catbalogan)周辺;レイテ島北部、パナイ島イロイロ市バナテ湾(BanateBay), ネグロス島ネグロス・オクシデンタリスのビナルバガン(Binalbagan),ハイニガラン(Hinigarann ), ヒマメイラン(Himamaylan);セブ島リロアン地域(Liloan)、ボホール島北部沿岸;ミンダナオ島ダバオ湾(Davao Gulf)などである。


図26. フィリピンにおける主要な牡蠣養殖場(今回調査に訪れたバコール湾、
リロアン、カンブハットはそれぞれ図のA,B,Cの地点である

 フィリピンの牡蠣生産高は国連の食糧・農業機構(FAO)の資料によると2007年以降は2万トンを上回り最近では2万数千万トンを維持しわずかずつ増加傾向にある(世界第8位)。水産省の関係者に聞いたところ、この統計は牡蠣養殖の組合や会社から年間生産量が報告された合計であり、生産量が把握できない零細な漁民個人や半農半漁、観光目的のカキ養殖については統計に含まれていないとのことであるので、実際の生産量はもっと多いと考えられる。

フィリピンの牡蠣はこれまで輸出されたことが無く、すべてが地産・地消である。フィリピンの人々は古くから、日本の潮干狩りのように、干潮時に沿岸で牡蠣を採集し食してきた習わしがあり、牡蠣は身近な安価な食品というイメージがある。そのこともあってか、カキ養殖ではなるべく安価に生産するため、養殖に使う竹材も輸送量のかからない近隣から調達し、生産された牡蠣の輸送費がかからない消費地の都市近郊であることが養殖地の立地条件となっている。

年間2万数千トンという生産量は、卸価格と生産価格の関係での制約下での最適生産量になっていると思われる。最近フィリピンのGNP は毎年6%を超しており、中流階級以上では収入が増えており管理された住宅地に家を買い、マイカーを持ち豊かな生活を送る人々が増加しており、フィリッピン人の生活のイメージが大きく変容を遂げているように思われる。

モールの食品売り場でも、高価な食材を惜しげなく買い求める人が以前に比べ目立ってきている。
フィリッピンのカキ養殖についての最近の動向で注目されるのは、農業省の漁業・水産資源局(Bureau of Fisheries & Aquatic Resources, Department of Agriculture)が肝いりで、これまでの固定式養殖法に代わって、日本で一般に行われている浮筏の垂下法ヤブイにロープを張った垂下法を導入するために、ルソン島北部カガヤン地方のバグエイ、ゴンザガ、サンタ・アナで浮筏の垂下法によるカキ養殖の実験区を設け漁業者に浮筏の垂下法の作製法や養殖技術のトレーニングを行っている。その結果これまでの低潮位での水深が5m以浅の固定式筏での面積当たりの生産量を大幅に上回る良質のカキが収穫できることが実証されている。

現在、フィリピンの大学の水産学部の学生が、陸前高田のカキ養殖から養殖技術を学ぶために訪日しているなど、将来に向けた準備が着実に進行している。先に述べた養殖地域でも、ルソン島のカガヤン地方沿岸、マニラ近郊バターン半島アブカイ及びマリべレス、ケソン州タヤバス湾, ネグロス島ネグロス・オクシデンタリスのヒマメイラン, セブ島北部、南西部沿岸、ボホール島南西部沿岸にまだ牡蠣養殖に適した未開発地が多く残されている。

フィリピンにはこれまで全く手つかずのカキ養殖に適した広大な海域が残されており、これからの開発が期待されている。主な地域をあげれば、パナイ島北部アクラン州マカト地域(Makato, Aklan. North of Panay)の他、広大なミンダナオ島には、ミンダナオ島北部地域の北部ミサミス・オクシデンタリス州イリガン湾の奥部パンギル湾(Panguil Bay, Misamis Occ. )、北西部北ザンボアンガ州ルークバンガーオ湾(Luuk,Bongaao Cove, Sacol) およびサンタクルツのスカールラグーン( Scall Lagoon, Sta. Cruz, Dapitan City)、北スリガオ州 シアルガオ島(Del Caman Dapa, Surigao del Norte)が、またミンダナオ島南部地域でこれまでモロ・イスラム解放戦線(MILF)の支配地域(来年度バンサモロ自治政府が樹立される)には手つかずの多くのカキ養殖に適した内湾がある。

来年度成立するミンダナオのバンサモロ自治政府の移行委員会もカキ養殖を主要産業の一つとする原案を立て、日本政府のJICAの援助によって日本式のカキ養殖技術を導入する計画が進行している。2013年の春には、バンサモロ自治政府の移行委員会のメンバーとMIFL和平交渉団がJICA と外務省の招きで来日した際、広島県庁を訪れ、県庁ならびに江田島市職員の案内で広島湾の江田島を訪れ、牡蠣養殖・加工場を視察している。この視察でメンバーは江田島市の牡蠣生産量(年間2万3000トン)がフィリピン全体の生産量と同じであることを知り、ミンダナオの牡蠣産業育成に希望の光を見たという報道がなされている(JICA のホームページによる)。

経済成長によって、暮らしぶりが好転しつつあるフィリピンでは、近い将来、現在より高価な衛生的に管理された良質な牡蠣の需要が都市部のみならず国内全域で拡大することが予想されており、これまでの生産量を大幅に上回る国内生産量が求められ可能性がある。この潜在的需要に応えるためには、これまでの養殖法に代わり、生産性の高い日本式の浮筏での垂下法の導入が不可欠となるであろう。この養殖法の導入とこれまで養殖のなされていなかったミンダナオ島などでの本格的な牡蠣生産が軌道に乗れば、中国を始めとする外国への牡蠣輸出が実現する日が訪れるものと思われる。

4.2 フィリピンにおける牡蠣料理とそのレシピ

 
 フィリピン随一のリゾートアイランドあるマクタン島でタクシー運転手に牡蠣料理を食べられるレストランはどこにあるかとタクシー運転手に尋ねたたところ、それならラプラプ像とマゼラン記念碑の近くにあるシュトキル(Sutukil)に行くのが良いだろうという返事が返ってきたので、そこへ連れて行って欲しいとタクシーに乗りこんだ。タクシーはマゼラン記念碑のある公園の前で停車し、運転手がここから2-3分でシュトキルにいけると言うので料金を払い下車した。公園で遊んでいた少年にシュトキルはどこか聞くと、自分が連れてってあげるというので付いていくと狭い路地に入口に魚貝類の水槽と魚貝類が並べてある海鮮料理店が並んでいた。

一つの店に入り女性店員にシュトキルというレストランはここかと尋ねると、シュトキルは店の名前でなく海鮮料理店と言う意味で、タガログ語のsigba(焼く;grill)+ tuba (煮る(鍋料理);boil)+ kilaw(生、刺身;raw)の2つ3つの頭文字をつないだ合成語であるとメモ用紙を使って説明してくれたので初めてシュトキルという意味が理解できた。


図27.シュトキルのカキ料理の広告


図28.料理に出される一人前のアイルダール牡蠣

 カキ料理に興味があり、カキ料理を食べる為に来たことを告げ、カキ料理が出来るかと尋ねると、ボホール島産の良いカキ(図28)があるので3種類のカキ料理(steamed oyster:蒸し牡蠣;grilled oyster: 炭火での焼きガキ; baked oyster:(バターとチーズを乗せて電子レンジで焼いた牡蠣)が出来るとのことで、蒸しガキを注文した。 以下の1. 蒸し牡蠣と4.焼きガキはその店のシェフに教えてもらった料理法です。2.は3章1に記したシンプルなカキ料理でHotel Sogo in Bacoor のシェフに教えてもらった調理法です。

1. 蒸しガキ(Steamed oyster)

材料(1-2人前)
 殻付き生ガキ 12個
 ビネガー 4分の1カップ
 赤唐辛子 1-2本
 随意に小粒の酢橘5個
 塩 小さじ2分の1杯
 好みによって、醤油小さじ1杯

調理法
① 殻付き生き牡蠣を蒸気で5分程度蒸す。
② 殻が開いたのを確認した後、取り出し上の殻を取り除き皿の上に並べる。
③ ビネガーの小瓶の中に切った赤唐辛子、塩コショー、醤油を入れ良く振り、ドレッシング状に仕立てたソースを蒸しガキの上に落とす。適宜酢橘を絞り蒸し牡蠣にかけ食する。

2. 茹で牡蠣 (Boiled Oyster)(2人前)

材料
 新鮮な殻付き牡蠣 20個
 中型の生姜をスライスしたもの
 中型タマネギ1個を大きく切ったもの
 ニンニク4片
 赤唐辛子2-3本
 セロリ 茎数本
 ハーブ
 乾燥した小エビ1つかみ
 塩 小さじ1杯
 コショー少々

調理法
① 中型鍋に水をいれ生姜、玉ねぎ、にんにく、赤唐辛子、セロリ、ハーブ、小エビ、塩、を入れて水が沸騰してから10分ほど煮る。
② 殻を良く洗った殻付き牡蠣を入れ5分以上にて殻が開いたことを確認後、
③ 鍋から取り出し大皿に盛り付ける。煮上がった牡蠣の身を殻から取り酢橘を絞った果汁をその上に落とし食べる。好みにより牡蠣を別仕立てのビネガー・チリーソースに少し浸けて食する。


3. 焼きガキ(Grilled oyster)

材料
 材料(1-2人前)
 殻付き生ガキ 12個
 ホワイトビネガー 4分の1カップ
 赤唐辛子 1-2本を切り刻んだもの
 塩 小さじ2分の1杯


調理法
① 新鮮な殻付き生き牡蠣を網の上またはグリル鍋(grill pan)に入れ赤  熱した炭火の上で少なくとも5分以上殻が開くまで焼く。
② 殻が開いたのを確認した後、牡蠣を取り出し上の殻を取り除く。
③ 牡蠣を皿の上に移す。
④ 焼けた牡蠣を別仕立てで作っておいたホワイトビネガーソース(ビネガーに刻んだトーガラシと塩が加えられている)に少し浸け食する。

4.焼きガキ(Baked oyster)(1-2人前)

材料
 殻付き生ガキ 12個
 バター 8分の1カップ
 チーズ 4分の1カップ
 塩コショー 少々

調理法
① 新鮮な殻付き牡蠣を蒸気で殻が5分以上殻が開くまで蒸す。
② 殻が開いたのを確認した後、牡蠣を取り出し上の殻を取り除く。
③ 牡蠣を磁器または耐熱ガラス製の皿の上に移し、溶けたバターを落としたのち、上にチーズを重ね、塩コショーを振る。
④ 電子レンジで5分ほど焼く。
⑤ 電子レンジから皿を取り出し熱いうちに料理を出す。

5.牡蠣の炒め料理(Filipino Guisadong Talaba or Sauteed Oysters)(1-2人分)

材料
 殻付き牡蠣 2カップ
 料理油  大匙2杯
 細かく刻んだニンニク小さじ1杯
 乱切りにした玉ネギ2分の1カップ
 角切りにした赤く熟したトマト 2分の1カップ
 味付け用の塩またはパティス*とスパイス容器で新しく粉末にしたコショウ
 *魚やエビの発酵で作るフィリピンの魚醤

調理法
① 鋳鉄製のフライパンで料理油を熱する。
② 刻んだニンニクをかき混ぜながらきつね色になるまで炒める。玉ねぎは透明になるまで炒める。
③ トマトを加え3分間加熱調理をする。
④ 牡蠣を加える。
⑤ 10分間とろ火で煮る。
⑥ 塩またはパティスで味付けをし、
⑦ スパイス容器で粒コショーを粉末にし、振りかける。

6.牡蠣のシーシッグ(牡蠣の炒めもの)(Oyster Sisig*)(4-6人分)
* フィリピンのパンパンガ語(ルソン島中部パンパンガ州周辺で話される言葉)で魚貝類や豚肉に酸味の強い柑橘類カラマンシ―などを乗せた酸味の効いた料理の総称。フィリピンでポピュラーな料理。

材料
 殻を取り除いた牡蠣のむき身 1キログラム
 ニンニク5玉を細かく切り刻んだもの
 玉ねぎ3玉を乱切りにしたもの
 赤トウガラシ3-5本をきざんだもの
 トウモロコシ粉2分の1カップ
 卵1個をとき卵としたもの
 バター2分の1カップ
 味付け用の塩とコショー
 醤油大匙3杯または液体調味料
 大匙3杯のマヨネーズ(好みによる)
 フィリピンの柑橘類カラマンシ― 5-6個(酢橘で可)

調理法
① ボールの中でコーンスターチと塩コショーを混ぜる。
② 牡蠣の身をとき卵のなかに浸け、1のコーンスターチ粉をまぶす。
③ 鍋の中で油を高温に熱し、衣をつけた牡蠣をフライにする。
④ ペーパータオルの上にカキフライを取り上げ油を取り除く。
⑤ 鍋の中で、バターを溶かしニンニクとタマネギをソテーする。
⑥ 鍋の中に、揚げた牡蠣、液体調味料、粉コショー、トウガラシ、好みによってマヨネーズを加え、よく混ぜる。
⑦ 温めた皿に移し、半分に切ったカラマンシ―を付けて食事に出す。

最後に

 フィリピンのカキ料理について記述しましたが、日本人の観光客がフィリピンを訪れ、マーケットなどで生牡蠣を買い、生のまま食し、食中毒になるケースが多々あり、フィリピンの病院に入院したり、運び込まれることがあるようです。フィリピンで生牡蠣や生の魚を食べるのは避けたほうが賢明です。メトロ・マニラには生ガキを提供する牡蠣バーもありますが、フィリピンの人々は生で食べる事はほとんどないです。