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新種のマガキを求めて  フィリピンのカキ養殖の現況・・・その三


3.1 セブ市近郊のLiloan 地域のカキ養殖

 セブ市内の公設市場や大型モールの鮮魚売り場には、必ず牡蠣(タガログ語でTalaba)が売られています。
通常、2種類のカキが売られており、1種はフィリピンの固有種で養殖されている大型のマガキ類アイアダールガキ、外形が履物のスリッパに似ていることから別名スリッパガキとも呼ばれているカキ(学名はCrassostrea iredalei)で大型水槽で殻付きの生きたまま売られていることが多いです。

もう1種はむき身としてのみ売られている小型の天然のイワガキ類(Saccostrea属)で漁師やその妻などが潮間帯の岩場に密集して固着しているカキ殻の右殻をナイフで剥がし、中身のみを採集し市場に卸しているものであります。いくつかの売り場の人に、大型の生きガキはどこで養殖されているものかと尋ねたところ、皆一様にリロアンだという耳慣れない地名が返ってきたので、リロアンがどこにあるかを確認したかった。 生物学部の同僚で造礁サンゴのアクキガイ科巻貝による食害を研究しているドミニク・べレーザさんにリロアンはどこか、そこでカキ養殖がなされているかを尋ねてみた。

彼によると、リロアン地域は、セブ市から車で1時間ほどで行け、同地域には入口が狭く閉じた静かな浅い2つの内湾(北方のリロアン市(Liloan)にあるリロアン湾(Liloan Bay)とその南のコンソラシオン市(Consolacion)からリロアン市にひろがるカンサガ湾(Cansaga Bay))があり、2つの内湾でカキの養殖がなされており、リロアン産のカキとはこの2つの内湾で生産される牡蠣の事であり、カキ養殖池によってはカキを中心とする海鮮料理が食べられる施設が造られているのでセブ市民にとって休日に家族で気軽な日帰り旅行に出かける場所の1つであると教えられた。

ハマグリ類に関する共同研究を始めた同僚の女性貝類研究者アニー ディオラさんにリロアンのカキ養殖について調査に行くので同行しないかと誘ってみたところ、カキの専門家からカキについて学べる絶好の機会なので是非、案内役をするので連れて行って欲しいという色よい返事をいただいた。早速、教室事務と学部長宛に、リロアンにカキの調査に行くので、日帰りの出張と運転手つき公用車の使用許可願を申請しその申請が認められた。

11月20日(2014年)、午後3時前後の大潮干潮時にあわせ大学を午後1時に公用車で出発した。 公用車は三菱自動車のパジェロのロングタイプで運転手は生物学部のお抱え運転手のジミーさんである。セブ市からセブ島の北方に向かうには通常マンダウエ市(Mandaue)から始まる高速道路National Highwayを利用するが、リロアン地域に行くにはマンダウエ市(Mandaue)の高速道路の入り口で右折しカンサガ湾の入り口にかかるカンサガ橋を渡る海岸ルートを北方に進むことになる。 

出発して1時間もしないうちに大きなカンサガ橋が見えてきた。橋のたもとの南北両サイドにはマングローブが広がっている。橋の上からは左の車窓の内陸側にカンサガ湾(図11)が、右の車窓の湾口部には外海に面する大きな造船所が見えてきた。橋を越えた道路沿いにあるガソリンスタンドに立ち寄り、近所の漁師の家を訪ね、カキ養殖の調査・観察のためにやってきたので、アプローチがしやすい養殖地を知らないかと尋ね歩いた。漁師の1人から。カンサガ湾内のスノック(Snok)に手ごろで調査ができるカキ養殖場があるので行って見たらよいのではという情報とそこに行く道路の入り口の位置とその道路の行き止まりに養殖場があることを教えられた。

教えられた道はマイクロバスがやっと通れるほどの曲がりくねった道で、その行き止まりに、林の一部を削り土砂がむきだしのやや広い駐車スペースがあり、すでに5台ほどの自家用車が駐車していたのでその脇に駐車した。 駐車場の前にある疎らな常緑樹の隙間からきらめく水面が垣間見れ、良く見ると竹の棒が水面上につきでている光景が見られたのでここが教えられたカキ養殖場であることが分かった。

養殖場には赤いトタン屋根とニッパ葺き家があり(図12)、入り口を入ると通路の左に事務所が、右側の事務所の前には殻付き牡蠣、魚、エビ、カニなどが入った水槽が並べられ、大型の木製コンテナ―には山盛りの殻付き牡蠣が、塩ビ製のコンテナーには種々の鮮魚、貝類、生きのよいイカ、エビ、カニ類が並べられ秤売りされている。その前方奥には食事スペースが並び牡蠣や魚介類を焼いてにぎやかに食事をしている人たちの姿がみえた(図13、図.14)。


図11.多くの牡蠣養殖場があるカンサガ湾の風景


図12.牡蠣養殖場の事務所と付設観光施設の風景


図13.事務所内部の風景


図14.訪問者が牡蠣を食べている様子


図15.カンサガ川河口域の訪問した牡蠣養殖場の風景


図16.養殖場内に列をなす牡蠣養殖の水平棚


図17.干潮時に牡蠣棚上に露出した牡蠣

 事務所の受付に、来訪の目的を告げると事務所から養殖場のオーナーのリチャード・ジョルダン(Richard Jordan)さんが出てきて我々の訪問を歓迎してくれるとともに、カキ養殖棚の観察が出来るように所員に木船を出し案内するように命じた。

早速、この養殖場についてオーナーにインタビューを行ないこの養殖場について次のような情報を得た。

  1. 養殖場はカンサガ湾の湾奥部にありカンサガ川が湾に流入する河口域にあり、マングローブの入江を  潮の干満に伴う汽水の流入・排出口を残して人工的に堤防で締め切りその内部(幅約100mX奥行約200m)でカキ養殖を行っている(図16)。地名はSunok, Tayud Consolacionである。
  2. 養殖池内部の水深は最大干潮時には水深約2mほどに下がり、底には軟泥が堆積しているため竹棒の杭打ち法や筏を組んでの垂下式の牡蠣養殖は出来ないので、この環境条件で最大の収穫量が得られる水平棚上でのカキ養殖法(tray culture method)を採用している。この牡蠣養殖場では、太い竹の柱を長方形(およそのサイズは長径が約3m;短径が約1.5m位)の角の位置に打ち込み、この支柱に、最大干潮時に少し露出するレベルに竹棒を縦横に配置し両者を結び格子状の棚を作り、その上にナイロン製の細かい網を張った棚を設置しこの網棚の上に牡蠣の稚貝を並べ牡蠣の成長(7か月から1年)を待って収穫している。1つの網棚で、毎年、殻の長径が7cmから12cmほどに成長した1000個体ほどの良質のカキが収穫できる。本養殖場の養殖池内には約100の棚が設置されており、年間で殻付きカキを約50トン生産している。生産された牡蠣の一部は養殖場を訪れた人たちのカキ料理やお土産として販売するほか、人口260万人を超すセブ都市圏の市場やモールなどに卸される。生産された牡蠣の売り上げと養殖場の訪問者が食事や持ち帰る魚介類の代金を含めると、年間を通して安定したカキ養殖場の経営が成り立たっている。
  3. 本牡蠣養殖場の運営母体はネグロス島のバコルド(Bacold)にあるカキ養殖会社で、ここで生産されている牡蠣はネグロス島のバコルドで9月-12月にヤシ皮の繊維などのコレクターに付着した稚貝が成長し幼貝となった段階で、この養殖場に運ばれ網棚上で育てられているものである。

これらの説明をして頂いているうちに、当日の最大干潮時間がやってきた。私は養殖場のロミニック・パパ(Rominick Papa)さんが竿一本で操る木製箱舟に載せてもらい牡蠣養殖の網棚の観察に向かった。養殖池には干潮で多くの牡蠣を乗せた網棚の一部が空中に露出し始めていた(図16)。 至近の網棚に箱舟を付け水平網棚による牡蠣の養殖法を観察した。

網棚を支える竹棚を観察すると、やや細めの横に並列した4-6本の竹棒を、それらの下に広い間隔で置かれた縦の竹棒と細いナイロンロープで結び格子棚が造られており、その上に網の目が5㎜ほどのナイロン網が張られている。網の上には一部は重なり合うような蜜な状態で成長を遂げたカキが並んでいる(図17)。

先ほどのオーナーの説明が、実際の養殖棚を観察して良く理解できた。 観察を終え、標本ならびにDNA分析用のいくつかの標本を採集させていただいたので、再び箱舟を移動し漕ぎ出た地点に船を着け下船した。運転手のジミーさん、同僚のアニーさんは既に家族へのおみやげにそれぞれ5㎏の殻付き生き牡蠣また新鮮なエビ類などを購入し、今晩は蒸しガキで家族と夕食を楽しむと盛り上がっていた。

オーナー、案内役を務めてくれたロミニックさんらにお礼と別れの挨拶をして車で牡蠣養殖場を後にした。これまでに体験したことの無い牡蠣の養殖法を見学することが出来私にとってはとても有意義な1日でした。

3.2 マングローブ地域の小規模カキ養殖場;エコツアーのために作られたボホール島・カンブハット牡蠣養殖場

 金曜日午後学部学生向けのセミナーを終え、教員のオフィスでジョペッテさん(Joeppette Hermosilla;東京海洋大で学位取得し講師を務める魚類学者)と談笑中、私が、カヴィテ、リロアンの牡蠣養殖場の調査に行った話をすると、ボホール島に地域住民の組合がエコツアーのために設置したカンブハット牡蠣養殖場があるので是非調査したらと勧められた。

彼の話によると、サンカルロス大学(University of San Carlos)とボホールにある姉妹校(University of Holly Name, Bohol)が共同で申請したプロジェクト「エコツーリズム:地域の持続的発展と貧困の縮小の手段(Ecoturism:vehicle for sustainable development & poverty reduction)」がフィリピン科学技術省の競争研究資金プロジェクトに採択され、3年間のこの研究プロジェクトが最近終了したとのことである。

同氏もその主要メンバーとして、マングローブの水産資源の持続的活用について研究を行なってきたが、その中でエコツアーのために作られたボホール島・カンブハット牡蠣養殖場を1つのモデルケースとして調査研究を行なったとのことであった。

日本に帰国するまでに大潮の干潮が訪れるのは、休日になっている明日(土曜日),明後日(日曜日)しか残されていないことが分かっていたので、すぐにボホール島出身の女子学部学生クリスチナさんに往復旅費と謝金をはらうのでガイドをしてもらえないかとお願いした。幸い、彼女はこの週末は予定が無く、久々に実家にも帰れるのでと言ってガイドを引き受けてくれることになった。

11月22日(土曜日)、4時30分起床。コンドミニアムのゲート前に5時に予約してあったタクシーに乗りセブ市の中心地へ向かった、途中カントリーモール前でクリスチナさんをピックアップし、セブ港の1番埠頭に向かった。土曜日の早朝であったので道路には車両が少なく5時35分には埠頭に到着した。

すぐに昨日予約してあったMV Starcraft会社の高速艇でのセブ-ツビゴン(Tubigon)の往復切符を購入し6時30分発の乗船者の最終チェックイン時間6:00前ぎりぎりにチェックインすることが出来た。土曜日の1番艇ということもあって週末セブからボホールに帰る乗客、観光客も多く座席は満席で通路も立っている乗客で占められていた。高速艇は定時に出港し、ボホール海峡の白い風波を切りながらツビゴンを目指した。

40分をすぎたころからサンゴ礁で取り囲まれたいくつかの小島が見られ、その背後にボホール島の山並が見えた後、間もなくしてツビゴン港に入港した。下船した乗客は、先を争そって待機していたタクシーや予約していたツアー客用のボックスカーやマイクロバスに乗って港を後にした。

あたりを見てもすでにタクシーは無く、残された人が乗合のトライサイクルに乗り込んでいる。港の船会社の人にタクシーがやって来るかと尋ねると、3時間半後に次の船が入港するころには可能性はあるが、この港にはタクシーが少なく、事前に予約していないとまず無理だろうという返事で、トライサイクルの利用を勧められた。

事務所の横で待っていた原付きトライサイクルの運転手にカンブハットのエコツアー村に行くかと尋ねると行ってもよいという返事であったが、辺鄙なところなので帰りに乗客を乗せて帰るあてはないので片道でも650ペソ(約2470円)、往復の場合は、1時間以内に戻れるのなら850ペソ(3145円)でいいと言う。
ガイド役のクリスチナさんが値引き交渉を行ってくれたが値下げは出来ないという返事であったので、片道650ペソでお願いをした。

地図でみるとツビゴンからカンブハットまでは約35㎞ほどの距離がある。運転手によればそのほとんどが舗装してない悪路であるので1時間半はかかるだろうと言う。座席では車輪側の座席はより振動が伝わるというので私が車輪側に座ることにしカンブハットに出発した。沿道沿いのいくつもの集落を過ぎクラリン(Clarin)の市街地に入ると2013年10月13日のボホール大地震で崩壊した家々が目に入ってきた中でも特に目についたのはスペイン統治時代初期に作られた有名なカトリック教会であるクラリン教会が崩壊し痛々しい姿をさらしていた。

クラリンを過ぎると高いヤシの木に囲まれた美しい水田風景が展開され文明に汚されていないボホールののどかな農村の原風景を堪能した。やがてイナバンガ(Inabanga)の市街地に入りイナバンガ川にかかる橋を渡りブエナビスタ(Buenavista)に向かって30分ほど東進すると、道路の右側にカンブハットへの入り口の道標が見えてきた。右折し細い山道を西方に15分ほど進んだ行き止まりにカンブハット・エコツアー村(Cambuhat ecotour village)の木製看板があったので、ここでトライサイクルを下車した。

入口の門を入り、エコツアー村の事務所を訪ね訪問の目的を告げると、当日の当番で組合の世話人の1人でもある中年女性のクレッセン・アパレイスさん(Crescen Aparace)が現れ対応してくれた。
早速、クレッセンさんにインタビューし、カンブハット・エコツアー村について質問し次のような説明を頂いた。

  1. カンブハット・エコツアー村は、ボホール島の北西部、ブエナビスタ町カンブハットにある(Barangay Cambuhat, Buenavista, Bohol)。カンブハットには60世帯数があり人々は狭い農地での零細農業と小舟をつかってのカンブハット川の河口および沿岸での漁業で自給自足的な生活を営んできたが、現金収入が無く貧困状態から抜け出せないでいた。
  2. 1999年に60戸が組合員となってカンブハット発展事業組合(Cambhut Enterprise and Development Association)を発足し、その主要な事業を村の豊かな自然を持続的に活用してのエコツアーとした。エコツアーの主な内容は、マングローブ・ニッパヤシに囲まれたカンブハット川でのカヌーツアー、カキ養殖筏でのカキの収穫体験、マングローブでのエビ・カニ籠漁、河口域・沿岸部での魚漁体験;森林ウォーキング;野外体験の後の魚類、カニ・エビ、牡蠣、海藻、農家で作られた野菜果物をつかっての食事とし、ツアー名はカンブハット オイスターファームツアー(Cambuhat -Oyster Farm Tour)とし旅行業者を通しての予約制をとっている。このエコツアーはセブ市、ボホールのタグビララン市(Tagbilaran)などの旅行業社に登録され、観光案内にも紹介されるに至っている。
  3. 観光シーズンの4月から9月には多くの予約が入り、最近では外国人のツアー客も訪れている。この事業収益は組合メンバーで分配され、貧しかった村の暮らしに安定とゆとりをもたらしている。
  4. 牡蠣の養殖法は2つの方法を用いている;その一つは浮筏を使っての垂下法、もう一つは川を横切る方向に約3m間隔の対をなす長い竹棒を川の流れの方向に平行して20-30本川底に打ち込み支柱を作り、この支柱を縦横方向に竹の棒を渡し固定し、その横棒に牡蠣の付いた長いロープを結び垂下する方法(Bamboo plot with vertical hanging method)である。稚貝は9月~11月に河口域でロープに吊り下げた蠣殻をコレクターとして採集する。


図18.エコツアーに使用されるアウトリガーつきカヌー


図19.船着き場の風景(舳先にいるのが案内をしてくれたクレッセンさん)

 インタビューが終わり、調査用の服に着替え靴を履き替えているとカヌーの準備が出来たのでカヌー乗り場に来て下さいとクレッセンさんの甥が知らせに来てくれた。土手の階段を降りると乗り場に細長い木製カヌー本体に竹で出来たアウトリガーを装着した船がつけられていた(図19)。狭いカヌーの前方に私がその後ろにクリスチナサンが座り、舳先にクレッセンさんが座り、船尾には艫を漕ぐクレッセンさんの叔父さんが座った。クレッセンさんの叔父さんが櫓を漕ぎカヌーをゆっくりと川下に進めていくとやがてマングローブに沿って左岸に細長い牡蠣筏がいくつか見えてきた(図20)。


図20.カンブハット川の左岸に並ぶ牡蠣養殖の浮筏 


図21.竹の浮筏に約20cmおきに牡蠣が吊るされている

 牡蠣筏の1つに.カヌーを着けて養殖法の観察を行った。牡蠣筏は川の流れに沿って10本ほどの長い竹棒を30から40cm間隔に配置し、これらの竹棒を直角に、約1m50cm置きに配置した竹棒で結びつけ格子状の棚の浮筏(図21)が造られており、筏が川に流されないようにロープと太い竹棒で陸のマングローブの幹と筏の竹棒(または筏に繋がれた発砲スチロールの浮ブイと)が繋がれている。

長い竹棒には約20cm置きに牡蠣をつるしたビニールロープが繋がれて垂下がっている(図19)。牡蠣養殖に使う稚貝は、ビニールロープに数十センチ間隔に取り付けたコレクターとなる牡蠣殻を野生のカキの放卵・放精がピークとなる9月から11月にカンブハット川の河口域の水中に垂下しておき牡蠣殻に着いた稚貝を用いる。
クレッセンさんが筏に飛び移り、垂下してあるロープの一本をナイフで切り、ロープを吊り上げ成長した牡蠣を見せてくれた(図22)。


図22.牡蠣のついたロープを引き上げてくれた 


図23.竹の柱を打ち込み行われている垂下式牡蠣養殖

 カヌーに戻ったクレッセンさんが研究材料にと切り取った牡蠣の着いたロープをプレゼントしてくれた。ロープを見ると、アイルダールガキ(Crassostrea iredalei)(図24、図25のA)とイワガキ属(Saccostrea)のヒヅメガキ(Saccostrea malabonensis)(図24、図25のB)の2種が一緒に着いていた。

さらに下流に設置してある同じ種類の牡蠣棚を観察した後、クレッセンさんが対岸(右岸)を下った水深の深い地点で異なったスタイルのカキ養殖が行なわれているので案内をすると、カヌーを斜め下流に進めた。その地点に近づくと川底に突き刺された対をなす竹の柱(互いの間隔はおよそ3m程)が水面に突き出し並列して並んでいた(図23)。

クレッセンさんの説明によると対をなす竹の柱を繋ぐ竹の横棒に牡蠣殻が多く結びつけられた2mに達するナイロンロープが垂下されており多くのカキが収穫できるという。潮が満ちてきたので良く見えないが対をなす竹の柱を繋ぐ竹の横棒がうっすらと確認できた。

帰路にマングローブとニッパの表面に固着しているイワガキ類を採集した後、カヌーを上流に移動し、船着き場に着け、私たちとクレッセンさんが下船した。時計を見るとすでに12時が過ぎていた。カンブハット川を見下ろす吹き抜けのニッパ作りのあずまやで着替えをし、休憩をとっていると、クレッセンさんが事務所から出てきて昼食を準備しているので30分程待ってほしいと伝えに来た。

私たちはその間、エコツアー村の施設内にある林を散策した。事務所の裏やグループツアー客が食事するニッパハウスの裏の敷地のあちこちに中身が食べられた牡蠣殻の山があったので、私は最近捨てられた牡蠣殻のカキの種類を調べ、約7割の殻はフィリピン各地で養殖されているマガキ属のアイアダールガキ(Crassostrea iredalei)(図24、図25のA)で、約3割はイワガキ属(Saccostrea)のヒヅメガキ(Saccostrea malabonensis)(図24、図25のB)であった。日本とは異なり、タイやフィリピンの牡蠣養殖場ではマガキ属の種に加え、イワガキ属(Saccostrea)の種が同時に養殖されている例も少なくない。


図24.カンブハット川で養殖されている2種の牡蠣
(A:アイルダールガキ(Crassostrea iredalei)、
 B:ヒヅメガキ(Saccostrea malabonensis)


図25.カンブハット川で養殖されている2種の牡蠣

 事務棟に戻ると調理室の前にある吹き抜けの食卓には既に煮魚の皿、フライにした数種の魚の盛られた皿、新鮮な野菜と海藻のサラダ、パイナップル,スイカなどが並べられており着席し待っていると、炊きたてのご飯と貝類の入った温かいスープが運ばれてきた。心のこもった手料理でもてなしてくれたクレッセンさんにお礼を述べ食事を始めた。彼女との会話を楽しみながら、私たちは時間をかけて料理を味わった。

ツアー料金を支払い、お礼のあいさつを済まし、帰り支度をしているとクレッセンさんの甥がサービス料金でツビゴン港まで車で送ってあげると言ってきたのでお願をした。 車がツビゴン港に着き、自宅があるタグビラランに行くクリスチナさんを送り、午後4時発セブ行き高速艇に乗りツビゴンを後にした。