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新種のマガキ類を探す旅―中国沿岸のカキ類調査旅行記

小澤智生

プロローグ

私がカキ類の分子系統学的研究を開始したのは、2001年4月ですから、もう16年も前のことになります。

当時、私は地球科学教室の教員でしたが、教室に地球生物学講座という新講座を立ち上げ、スタッフ、院生・学生とともに分子系統学的手法と化石記録を用い、日本の陸生・海生動物相の起源を明らかにするプロジェクトを開始しました。研究対象の動物として、ユーラシアーアジアのシカ、イノシシ類などの大型ほ乳類、爬虫類、魚類、淡水・海産貝類に至る多くの分類群を対象にしました。

カキ類は左殻で地物に固着し生活するので、固着する対象と微地形、底質、波浪環境などによって著しく殻の形を変えるため形態学的研究のみではその分類が困難であり、DNA の塩基配列で分類を見直すのに格好の研究材料と考えました。

この研究は長期戦になることが明白でしたので、学生・院生の研究テーマには不向きなため、自分自身の研究のサイドワークとして長期間にわたって研究データを蓄積することにしました。

2001年11月半ばに沖縄島のシマガキと呼ばれフィリピンのマガキ属の種と同種と考えられていた種の分析サンプルを5地点で収集し、DNAの塩基配列を分析したところ、3集団はポルトガルガキ(Crassostrea angulata)、1集団はマガキ(C. gigas)、1集団はポルトガルガキとマガキの混合集団という予期せぬ結果を得ました。その後の分析で、奄美大島のマガキと思われる集団もポルトガルガキよりなることが判明しました。

これを契機に、台湾、香港、ポルトガルおよびスペインのポルトガルガキの集団のDNA 分析を始めました。

2004年に、香港大学でカキ類の研究を行っている旧知のキャサリン・ラム博士(香港の深水湾で養殖されているマガキとされていた種が新種のホンコンガキ(Crassostrea hongkongensis Lam and Morton, 2003)であると明らかにした論文の著者)に東アジアと南ヨーロッパのポルトガルガキ集団の成立について共同研究を行いたい旨のメールを送ったところ、彼女からの返信メールには、現在、香港城市大学付属海下湾海洋実験室の仕事がとても忙しく、当面カキ類の研究はできる状況では無いことと、香港大学の海洋研究センターの冷蔵庫にマカオおよび香港で採集したポルトガルガキのアルコール保存の軟体部標本と台湾で採集したポルトガルガキと考えられる殻付き標本があるはずなので、見つかり次第送付するということが書かれていました。

後日送られてきた香港産の軟体組織標本20サンプルからDNAを抽出し、ミトコンドリアDNA のシトクローム オキシダーゼサブユニットI (COI) 遺伝子領域の塩基配列を決定したところ、12個体にマガキ属に固有の配列が認められ、その内3個体はポルトガルガキと断定できたものの、残りの9個体はその塩基配列が遺伝子バンク(GenBank)に未だ登録されておらず、分子系統樹形からも新種であることが明らかになりました。

早速、この結果をラム博士に知らせ、協同で新種の記載論文を書きたいので、軟体部に対応する貝殻標本を送っていただくようにとのメールを送りました。その後彼女からは、香港大学を去る際、重要な標本は大英自然史博物館に寄贈し、残りの貝殻試料は処分してしまい現在は無いという残念な返信メールが届きました。今後の研究の進め方についてメールのやり取りをした結果、互いに時間的なゆとりが出来た時点に調査と採集を行い新種の記載論文を書こうということに落ち着きました。

 平成22年度(2010年)になってやっと、時間のゆとりが出来てきたので、先延ばしにしていた香港を含む中国沿岸のマガキ属の新種を探す旅を行いました。調査旅行記に関してはまたの機会に紹介したいと思います。

今回のブログでは、中国の牡蠣養殖に関連して以下の2つの内容を紹介していきます。


第1回 中国におけるカキ養殖の開始

第2回 中国における牡蠣養殖法の発展と牡蠣生産の現況